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武蔵大学社会学部メディア社会学科2年次:メディア社会学方法論・松谷ゼミによる年刊ウェブマガジン

自転車を共有する時代になるか!?──自転車利用が進む現在

written by 吉田 和希[edited by 松本祐太郎]

自転車の可能性とは

 自動車より小回りが利き、歩くより早く目的地に着く──そんな便利な乗り物が自転車だ。買い物や、通勤、通学と日常生活の足として使われ続けている。最近では、移動手段としてだけでなく、運動不足の解消や、自転車にのって出かけるいわゆるポタリングやツーリングといった、趣味としての一面も持つようになった。

 さらに2017年12月に国会では、自転車利用の推進のための「自転車活用推進法」が可決された。今後自転車がもっと乗りやすい社会になるのではないかと期待されている。このように自転車に新しい風が吹くなか、日本各地で期待され始めているサービスがある。それがシェアサイクルやレンタサイクルといわれる、自転車の貸し出しサービスだ。

 一体どのようなことが期待されているのか、そして浮かび上がってきた問題点や、今後はどうなっていくのか、今回はそれらについてお伝えしていきたい。

自転車を共有するサービス

 皆さんは、自転車の貸し出しサービスと聞くと、名前的にもレンタサイクルが真っ先に頭に浮かぶだろう。ではシェアサイクルと一体何が違うのだろうか。国土交通省によると、明確な違いはまだないそうだ(菊地雅彦「コミュニティサイクル導入の現状と課題」2012年/国土交通省)。

 ただ国交省は、レンタルサイクルを鉄道駅に隣接して作られた1つのサイクルポート(駐輪場のようなもの)を中心とした往復利用を考えている。一方で、シェアサイクルは、街中のいたるところにポートが設置されている。そのポート間であればどこでも乗り降りが自由なのだ。

 借りたところに戻って返す必要のあるレンタサイクルと比べ、自由に乗り降りができるシェアサイクルは、より生活に馴染みやすいだろう。

 そんな2つのサービスは、日々の利用はもちろんのこと、観光地でも活躍することだろう。例えば、京都のような観光地がばらけているところでは、個人営業のレンタサイクルがいくつかある。歩いていくには遠いけど、電車やバスに乗るほどの距離でもない。そんな観光地において、自転車はピッタリの乗り物だろう。

「歩いていけないようなところでも、自転車であれば行くことができる」

 そう話すのは、首都圏のほかに大阪や福岡などでシェアサイクル事業を展開するOpenStreet社の工藤智彰氏だ。実際に同社が展開するシェアサイクルサービス・HELLO CYCLINGは、伊豆や小豆島でも展開しており、電動自転車でのサービスもある。自動車を使うほどではないが、徒歩だと大変な距離だ。そこでちょうど良い交通手段が自転車なのである。特に、見所があちらこちらにある観光地において、真価を発揮している。ちなみに利用料金は、自転車ごとに異なっており、月額費用や、初期費用は必要ない。また、一台ごとに一日の上限金額がある。

 また、レンタサイクルには本格的なスポーツサイクル、いわゆるロードバイククロスバイクを貸し出すサービスがある。その一つが、サイクリストに聖地と呼ばれるほどの人気を誇る瀬戸内海のしまなみ海道だ。アメリカの報道専門テレビ局・CNNで「世界7大サイクリングロード」の1つにも選ばれ、国際的にも有名である(*1)。

 広島県尾道市から愛媛県今治市を結ぶしまなみ海道は、全長70キロ近くあり、途中橋への接続のためにのぼり坂もある。そんなコースを快適に走るために、台湾大手メーカーである「GIANT」が、スポーツサイクルの貸し出しを行っている。こちらでは本格的なスポーツバイクが5時間3000円から借りることができる。

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愛媛県今治市側のGIANTストア。店内には様々なスポーツバイクが並ぶ(2018年8月13日/筆者撮影)。

 他にも、観光サイト・SIMANAMI JAPANによると、一般車のレンタサイクルがある。こちらは島ごとにポートがある。貸し出しポートのある島内であれば、借りたポートと異なるポートに乗り捨ても可能である。別料金がかかるが、島外のポートにも返却が可能であり、気軽にサイクリングを楽しむことができる。

 どちらのサービスも、現地で簡単に借りることができる。そのため、風光明媚な景色のなか、手ぶらでサイクリングを楽しむことができるのだ。

 大小さまざまな島が浮かぶ瀬戸内海を、自転車で風を切って走る。最近注目され始めている、体験型の観光に自転車はもってこいの存在なのではないだろうか。

 観光以外の使用でも、自転車の小回りの良さは期待されている。その一つが災害時の移動手段としての利用だ。エンジンが人力であり、機動性がある上に、仮にパンクしたとしてもすぐに修理ができる。道路が陥没したり、寸断されたりしない限りは、自転車は移動手段としてきわめて優秀な乗り物だ。

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大小様々な島が浮かぶ瀬戸内海は、それぞれ違う風景をみせる(2018年8月13日/筆者撮影)。

 今年の6月18日に起きた大阪地震の際にも、止まった公共交通機関に変わり、人々の足として大いに活躍していた。HELLOCYCLINGでは、大阪地震が起きた数時間後にシェアサイクルの無料貸し出しを始めており、実際に線路沿いでよく使われていた。同社・工藤氏は、「当初、無償貸し出しにすると、戻ってこないのではないかという思いはあった。だが、利用者の方々か使い終わったら返してくれたため、多くの人に利用してもらえた」と話した。今後行政と協力しつつ、災害発生時に医師といった人命救助にかかわる人々が優先的に使えるように、取り組んでいくそうだ。

まだまだ改善が必要か

 そんなシェアサイクルサービスであるが、実情はどうなのだろうか。市場メディアホノテが行った、東京都民1万人に対する調査によると、知っているという人が70%に対し、63%の人が知ってはいるものの利用したことがないと答えている。知られてはいるが、使われていないのが現状のようだ(*2)。

 世界のシェアサイクルサービスと比べても、日本はまだ始まったばかりとはいえ遅れている。特に大きく遅れているのはポートの数であろう。

 たとえば、フランス・パリ市内のシェアサイクルサービス・Velibでは市内に1,800ヶ所のポートが設置してあり、計算上では、300mごとに設置されていることになる(*3)。カナダ・モントリオールのシェアサイクルサービス・BIXIでも市内に540ヶ所設置されている(同前)。

 その一方でNTTドコモと自治体が、2016年5月1日より実験的に始まった自転車シェアリング広域実験も、東京の7区(文京区、千代田区、港区、中央区、新宿区、江東区、渋谷区)で210ヶ所と、国際的に比べても少な目だ。このシェアリングサービスでは、駅等の、近くにポートが設置されており7区内であれば、どのポートでも返すことができる。公共交通機関と連携することで、効率的に移動ができる。料金は、1回会員、月額制、1日パスにわかれているため、使い方によってそれぞれ使いやすい設定になっている。1回会員の場合、最初の30分が150円、その後は30分ごとに100円となっている。月額会員の場合は、基本料金月2000円を払えば、30分以内であれば、何度利用しても無料だ。なお、30分を超えるごとに100円だ。1日パスの場合は、友人の窓口であれば2000円、無人窓口であれば1500円で、買った日の23時59分まで有効だ。また、2016年12月から、セブンイレブンが、協業しており港区の2店舗で、貸し出しを行っている。今後、利便性を上げるために、コンビニでのポート設置が可能になれば、ポート数が大幅に伸び、増設が実現されそうだ。

 そもそもシェアサイクルにおいて重要な点の1つが駐輪場の確保だ。日本の自転車利用台数は年々増え続け、自動車保有台数と並ぶほどになっている。保有台数が増えている自転車だが、自転車基本法により利用について規則が設けられている。駅前の放置自転車は、自治体によって撤去されているのだ。シェアサイクルではそういった、駐輪場の不足を補うために、あらかじめ、停められる場所を提供している。

 だが、日本が海外の真似をすることはなかなか難しいところもある。特に日本の道の狭さは、自転車が走行するのも危険なほどだ。中国のように広い歩道であれば所かまわず、ポートを設置できるだろう。実際に中国では、シェアサイクルサービスが日常的に使われている。

 自転車の安全利用のため、警視庁が定めた「自転車安全利用五則」というものがある(警視庁ホームページ)これによると、自転車は軽車両に分類され、原則車道の左側を走ることになっている。だが、自転車が安全に走る

ために重要な、側道といわれる部分が狭いのだ。拡張しようにも、地権者との交渉が長引き、思うように進んでいないのが、日本の現状だ。

今後自転車利用は浸透するのか

 そのような中、2016年の12月に国会で「自転車活用推進法」が可決・成立した。昨年2月6日の『CYCLESPORTS』の記事にて、同法について触れられていた(*4)。記事では、都内で開かれたサイクリストに向けて、同法をわかりやすく説明するセミナーがあったことが伝えられていた。登壇したのは同法成立の立役者である、NPO自転車活用推進研究会の小林成基氏だ。従来の自転車基本法では、駐輪場の整備など利用の「対策」をする形であった。それが、同法では、「推進」になったことを強調していた。

 自転車活用推進法では、自転車が災害時の機動性や健康増進、交通混雑の緩和、二酸化炭素を出さないエコな乗りものとして見なされている。その利用を総合的・計画的に推進するのが同法である。その内容は自転車専用道路や、シェアサイクル施設の整備、公共交通機関との連携など多岐にわたる。

 今後、同法が浸透すれば、今より自転車は乗りやすくなるだろう。だが、実際のところまだ大きく変わっているようには感じられない。自転車が走るべき、車道を走れるような環境でもなく、シェアサイクルのポート増加も必須だろう。さらに、この法律についても、知らない人が多数を占めるだろう。

 そんななかでも、少しずつではあるが、自転車の、走りやすい環境は整えられつつある。

 例えば、車道の端に設置されている、「自転車ナビマーク」と呼ばれる矢印のマーク。これは、警視庁が自転車の車道通行を促進するために設置したもので、走るべきスペースを確保している。都内の道路において、走りやすい環境が整えられつつあるのだ。

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車道の端に設置されている「自転車ナビマーク」(筆者撮影)

 また、公共交通機関との連携が深まれば、まだ一部の地域でのみ実施されている、電車に自転車をそのまま入れるサービスも、全国的に広がっていくだろう。これにより、自転車観光が大きく後押しされるだろう。

 さらに、自転車通勤を事業者が禁止できなくなる可能性も示唆されている。自転車通勤中に、事故にあった際の労災や休業などの理由から、一般企業のなかには、自転車通勤を快く思わない事業者もいる。また、会社に駐輪場がなく、置く場所がない場合もある。特に都市圏のオフィスであればなおさらだろう。だが、法律では「その他事業者」つまり、自転車活用推進法を進める行政に加え、一般企業も同法に協力するように努力しなければならないとある。そのため、事業者が自転車通勤を認めるようになるのではないかと、小林氏は話している。また同記事において、小林氏は東日本大震災の後に自転車通勤をした人の3割が継続中であることを明かした。今後その数に加え、自転車で通勤する人がさらに増えるだろう。

 では実際にどのくらい進んでいるのだろうか。東京都の環境局に問い合わせてみると、自転車シェアリングサービスは、まだ市区町村単位で行われている状態だそうだ。どこでも気軽に乗ることができるまでは、時間がかかりそうである。都では今後、ポートの増加を見込んでおり、どのくらい増えるかは未定である。

 今後自転車活用推進法案が本格的に動き出せば、ポートの設置数の増加や、道の整備など自転車が走りやすい環境が整えられていくだろう。同法でも、自動車依存の体制から抜け出すことで、交通渋滞の緩和や、環境問題、運動不足の解消など様々な効果が期待されている。

 だが、使用者が増えるということは、同時に事故の増加にもつながるということだ。警察庁の2017年度の事故率の発表を見ると、年々低下している。自転車に限らず、自動車についても減少している。

 利用を促進しているが、まだ、環境が整えられたとは言えない日本の自転車利用の現状。単に促進するだけでは、事故率の増加を招いてしまうのではないか。環境はそう簡単には変わらない。私は移動手段の他にも、趣味で自転車に乗っている。風を切る感覚が気持ちいいのはもちろん、自転車のスピードがちょうどいい。そんな自転車を安全に、気軽に乗れるような環境にするために、行政がやっと動き出した。だが、行政は環境を整えることが限界だろう。逆走や違法駐輪等を、全て監視することは不可能だ。環境が整えられたとしても、自転車を使いやすくするためには、国民一人一人がマナーについて、意識しなくてはならないのではないだろうか。

*1:Peter Walker‘CNN 7best bikeroutes in the world’ 2015年12年24日 CNN Travel

https://edition.cnn.com/travel/article/worlds-best#-cycle-routes/index.html

*2:トコナッツ「東京都民の自転車シェアリングユーザーに調査!47%が『自転車を保有する代わりに利用』」『市場調査メディアホノテ』2017年10月31日/ https://honote.macromill.com/report/20171031/

*3:helpyou_taguchi 「環境に優しく観光促進。自転車(サイクル)シェアリングの市場動向まとめ。」 『シェアリングエコノミーラボ』2018年4月23日  http://sharing-economy-lab.jp/sharing-bicycle-market

*4:斎藤円華「自転車活用推進法でどう変わる??都内でセミナー」「CYCLESPORTS.JP」(八重洲出版) https://www.cyclesports.jp/articles/detail/75010