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武蔵大学社会学部メディア社会学科2年次:メディア社会学方法論・松谷ゼミによる年刊ウェブマガジン

インターナショナルスクールをあえて選ぶ理由とは──義務教育より国際教育?

written by 野村 紗英+細倉 舞[edited by 平井 良磨]

 

 近年、インターナショナルスクール(以下、インター)に子を通わせる親が話題になっている。どうしてインターに通わせようと考えたのか。一般に学費が高いと言われる私立校よりもインターは高額だ。しかも日本の義務教育を修了したことにもならない。では一体どんなメリットがあるのか。

 本稿では、教育を受ける側からの観点から現状の日本の教育と比較して、なぜインターが選ばれるのか考察していく。

そもそもインターってなに?

 インターナショナルスクールとは、一般的には主に英語により授業が行われ、外国人生徒を対象とする教育施設であると捉えられている。多くは学校教育法第134条に規定する各種学校として認められているが、無認可のものも少なからず存在しているようだ。他には、学教法第1条に規定する学校(以下「1条校」という)として認められたものがある。

 では、なぜインターは義務教育に当たらないのであろうか。学教法第17条では、学齢児童生徒を持つ保護者は、子を「小学校又は特別支援学校の小学部」と「中学校、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部」に就学させる義務があると規定されている。よって、子を1条校として認められていないインターナショナルスクールに入学させたとしても、法律で規定された就学義務を履行したことにはならないのだ。

 学教法においては、小学校等の課程を修了した者が中学校等に進学することを予定している。これは同法第45条で規定されているように、中学校は小学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて普通教育を施すことを義務化しているからだ。

 このことを踏まえると、例えば1条校でないインターナショナルスクールの小学部を終えた者が中学校から1条校への入学を希望しても、認められないこととなる。その逆に、インターナショナルスクールの中学部の途中で日本の中学校へ編入を希望する場合も同様だ。

 インターの教育・国際バカロレア

 多くのインターには、国際バカロレア(International Baccalaureate、以下IB)という教育システムが存在する。このシステムが導入されている学校では、卒業生へ大学入学資格の付与が認められる。外交官や国際機関の子女が大学に進学する際、円滑に入学できるような共通の入学資格(ディプロマ)を付与する構想が発端となってスタートした。IB教育は公式ホームページによると「より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成」を目的としていると書かれている。またその目的を達成するために、以下の10の学習者像を掲げている(*1)。

  • 探求する人
  • 知識のある人
  • 考える人
  • コミュニケーションができる人
  • 信念をもつ人
  • 心を開く人
  • 思いやりのある人
  • 挑戦する人
  • バランスのとれた人
  • 振り返りができる人

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図1:IB教育・10の学習者像(アオバインターナショナルスクールの教室内)

 現在、IBは世界149カ国、4600以上の学校で採用されている。当初はいわゆる高校卒業レベルのディプロマプログラム(以下DP)が整備されたが、その後、幼・小レベルのプライマリーイヤーズプログラム(以下PYP)、中学校レベルのミドルイヤーズプログラム(以下MYP)と、徐々に初等中等教育段階一貫のプログラムとしての整備が図られてきた。DPでは言語と文学(母国語)、言語習得(外国語)、数学など6教科と、コアと呼ばれる3つの必修要件(課題論文、知の理論、造性・活動・奉仕)がある。

 IBはスタートから50年近くが経過し、インターナショナルスクール卒業生への大学入学資格の付与という当初の目的から、大きく発展を遂げている。グローバルな活躍をするために必要な能力が習得でわきる、極めて有効なプログラムとして今では世界中から高く評価されている。しかしながら、日本では適切に認知され、活用されているとは言いがたい。

 日本社会のための義務教育

 では、我々の良く知る義務教育の目的とは一体何であろうか。日本の教育内容は教育基本法によって定められている。その中で義務教育については「各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする」とされている(*2)。

 この条文の通り、義務教育の目的は「国家及び社会の「形成者」として必要な能力を得るためのものである。

 では2つの教育内容を比べてみよう。「世界を変える能力と魅力ある人」を目指すIBの教育と「自立し日本を支える人」を目指す義務教育では、確かに前者が魅力に映るのも無理からぬことだろう。しかし重要なのは実際の教育内容であり、目的はあくまで理想である。

 とはいえ、われわれが経験してきた日本の教育ならいざ知らず、いきなりインターの具体的な教育を理解することはできない。そこでインターの教育を知るために取材に行ってきた。

 インターへの取材から見るインターの教育内容

 取材対象は、 東京都練馬区光が丘駅から徒歩15分ほどに位置しておいる、アオバジャパン・インターナショナルスクールだ。3歳から18歳までの生徒が460人在籍している。そのうちおよそ半分が外国籍の生徒で、残りが日本国籍をもった生徒である。その日本国籍の生徒は、ハーフと日本人が半分ずつだという。全部で46カ国の国籍の生徒が在籍している。

 入学者は国籍を問わず毎年増加する傾向にあり、志願者も毎年10〜15パーセント増加しているそうだ。ここからもインター人気の高まりが窺える。

 取材に行った6月28日は夏休み期間に入っており、通常の授業の様子を見ることはできなかった。しかし、サマースクールが開催されていたため、それを見学をさせてもらった。この学校の校舎は以前公立の小学校だったそうで、それを改修して使っている。そのため、自分たちが通っていた日本の学校に近く、どこか懐かしさを感じる雰囲気があった。

 日本の学校と異なる点は、校内の掲示物が全て英語で表示されていて、聞こえてくる会話も全て英語であることだ。授業の様子も日本と大きく異なっていた。例えば日本の学校であれば、授業は静かに座って先生の話を聞きノートをとるというかたちが一般的であり、それが良いとされている。

 しかしインターは違った。授業中の教室から、生徒たちの声が廊下まで聞こえてくるほどであった。教室の中では生徒の声がひっきりなしに飛び交っていた。高学年ではないが、それでも座って静かに授業を受けられる学年ではあるように見える。日本であれば、問題クラスとして連日職員会議が開かれてもおかしくはない様相だ。

 だが話を聞くと、授業にもよるがこれがどうやら普通らしい。積極的に発言し、自分の意見を述べることが評価され、かつそれが普通であるようだ。

 教室には黒板がなく、その代わりにホワイトボードが設置されていた。ホワイトボードにパソコンの画面を映して授業をする。

 また生徒1人1人が一台のパソコンを持っていて、ほとんどそれを使って勉強している。座席に決まりはなく、好きなところに座ることができる。また1人1つの机があるのではなく、大きい机に何個も椅子が並べてあり、まるで日本の大学のような環境であった。

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図2:アオバジャパンインターナショナルスクールの教室

 授業の内容も日本と大きく異なっていた。日本の教育は暗記が中心と言われている。例えば歴史の授業では年代や人物を暗記して、それをテストする。一方、インターでは暗記に力を入れず、自分が興味あることについて自ら学ぶようにしている。例えば歴史についてなら、課題を出されると自ら対象を決め、対象について調べ、考察して、発表していく。その人がなぜこのようにしたのかや、ほかの国の視点からその歴史を考えてみるなど、様々な方面から理解を深める。ただ覚えるだけではなく、自分で考えてみるという学習法が特徴的である。

 広報担当の瀧本清香さんは「このような自ら興味があることを積極的に調べていく学習法は、子どもたち自身が面白いと感じ、自分で学んでいくことが楽しくなる。視野が広くなり、自分の将来を自分自身で切り開いていくことに繋がる」と語った。

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図3:アオバジャパンインターナショナルスクールの図書室
そもそも低くない日本の教育水準

 ここまではいかにインターの教育が素晴らしいか書いてきたが、日本の教育も決して劣ってはいない。数学系、科学系の国際的な学力調査で日本が上位に入らなかったためしがない。図は国立教育政策研究所「平均得点及び順位の推移」から引用さしたものである。

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図4:国際学習到達度調査における日本の順位の推移(国立教育政策研究所「平均得点及び順位の推移」2015年/https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2015/01_point.pdf

 また政策研究大学院大学教授の岡本薫著『日本を滅ぼす教育議論』(2006年/講談社現代新書)では、1990年ごろに出版されていた『ニューズウィーク』誌が「理科教育は日本に学べ」と称賛し、また同時期の国際教育到達度評価学会は「日本の小学校では、実験や身近な事象を通じて、科学的に考える力が養成されている」と高く評価していた、と紹介されている(同書26ページ)。

 1990年とは、ゆとり教育が本格的に動き出す前の詰め込み型教育の時期である。考えてみると理科の実験の授業は何度も経験がある。算数の授業ではただ暗記だけをさせるのではなく、ブロックや時計などが入った算数セットを使って、数字と記号だけの世界を現実に表現して理解の助けとしていた。こう考えてみるとインターほどではないにせよ、思考力もあり学力も高いことが考えられる。図2の通り、日本の数学、科学の成績はまさに上位と言える成績である。

 インターと義務教育の比較

 ここまでで、ようやく考察に必要な前提が出そろったと言えるだろう。ではまずインターのデメリットと言える点から考察しよう。

 第1にインターの学費はかなり高額である。文部科学省の2016年度「子供の学習費調査」によると中学1年間で必要な費用が次のようになる。公立が47万8554円、私立が132万6933円(*3)。これに対し、取材したアオバジャパン・インターナショナルスクールでは学費だけで226万2500円とかなり高額、その上英語が自由に使えない人向けの専用サポートは47万4000円である(注7)。これだけでは他と比べ高いのか安いのか考えようがないので、いくつかのインターを比べてみることにする。どの学校も中学1年相当の年次の1年間の授業料を記載した。

学校名

アオバジャパンインターナショナルスクール

サンモールインターナショナルスクール

聖心インターナショナルスクール

学費(中学1年相当)

226万2500円(*4

251万5000円(*5

209万円(*6

 このサンモールインターナショナルスクールは日本で初めてできたインターである。聖心インターナショナルスクールはその数年後にできた学校で、どちらも古く伝統のある学校である。

 あくまでこれは授業料のみであるが、学習費は少なくともこれらを下回ることはない。これが何年間も続くとなると、普通の中流家庭ではおいそれと入学はできない。

 第2にインターのハードな教育が挙げられる。IB教育の「世界を変える能力と魅力ある人」という目的は、なんら張りぼてではなかった。それ故に授業も厳しく、生徒に多くを求める。相良憲昭・岩崎久美子編著『国際バカロレア』(2007年/明石書店)によると出来が悪ければ小中学生から留年も退学もさせるということが明示されている(同書94ページ)。これを自ら選び糧にしていけるような人ならば、インターはまさにこの上なく素晴らしい教育環境だろう。

 だが現実はそうもいかない。上で紹介したインターの授業方式だが、引っ込み思案であったり、そもそも勉強内容に興味を持てなかったりする子供にとっては、まさにこの世の地獄のような環境だろう。このあたりは少なくとも、言われたことだけをやれば確実に卒業できる日本の学校に救いがある。

 また日本の教育はやらない子に対し厳しく接するが、インターはそれに悪い意味で寛容である。ここに両者の教育目的の違いが顕著に現れている。日本の教育の目的は前出の通り「日本社会の形成者」である。故に出来の低い子であっても、努力をして最低限の形にしようとする。もちろん本人がその思惑を理解するかどうかは別だが。

 さらにいうと、日本の教育の利点の1つとしてあげられるものに結果の平等を重視している点がある。だからこそ、教師や学校は下の生徒をなんとか引っ張り上げようと苦心する。逆に、優秀な生徒のための授業はあまりしない。

 つまり、日本の一般的な学校は、全体をある程度まで押し上げる教育をやっているのである。これに対してインターは明確に「エリート」のための教育を行っている。できる子のための、やる気のある子のための、前に進む子のための教育である。もちろんそうさせるために興味を持たせることをするが、それでも興味が持てない子にはインターという場は何より辛い環境になるだろう。

 高卒程度、大学入学資格であるディプロマを得ることもこの上なくハードである。ディプロマの取得のためには、DPの6教科毎に課題が出る。各教科で論文や筆記・口頭試験、課題作品を作らなければならない。

 『国際バカロレア』の中にインター出身者にインタビューをしている箇所がある。そのなかからいくつか例を挙げると、生物と地理の教科でイギリスの実験施設に行き1週間ほど滞在、そこで川の汚染度や森の木の育ち方、苔のあるなし、海からはなれると植物はどう変わるかなどを調べ何個ものレポートを作ったそうだ。美術の教科では、1人で個展を開かなければならないそうだ。そのために大量の作品を作らなければならず、さらにその1つ1つにしっかりとテーマを決めてそれを試験官に説明しなければならない。第1言語の教科では、10冊以上の文学作品を読みそれについての筆記・口頭試験をクリアしなければならない。しかもこれらの課題の試験や提出、発表は5月のほぼ同時期に始まる(同書84~90ページ)。

 対して日本は、学期末の試験をクリアしていけばまず無事に卒業でき、課題等もほとんど存在しない。これは義務教育云々というよりも、大学受験に対応したシステムである。

 重い対価に見合うインターのメリット

  インターのデメリットを書いてきたが、今度は逆にメリットを考えてみよう。

 まず、英語やその他言語の十分な能力の習得が挙げられるだろう。

 第2に、様々な国や文化の考え方や生き方に直に接することにより、異文化理解が容易となるだろう。そこから様々なアイディアや興味が生まれることもあるだろう。

 第3に、そのハードな教育によって手に入れた思考力、行動力、知識力、そして何より自らの興味関心が今後の人生において強力な武器になるだろう。

 第4に、日本の悪しき習慣に囚われることがなくなる点だ。例えば、日本人は議論が下手だという自他共に認める認識がある。この背景には、大きく2つの要因がある。

 1つ目は日本的な「察する文化」と「年功序列」のせいである。日本では、はっきりモノを言うことが依然として失礼という考え方がある。後者は、年を食った人の方が物を知っていて偉い、なので年下が物知りの年上に対して意見をぶつけるなんて失礼ではないか、という考え方だ。

 2つ目の要因は、根本的に議論の何たるかを知らず、またそれを学ぶ機会も場所もほとんどないという点がある。

 概して、インターの教育のメリットとは、グローバルな世界で活躍のために必要な要素を習得しやすいことである。この結果になるのは単純明快な理由がある。IBの創立目的や教育対象を鑑みれば当然と言える。日本の教育は、国民全員をある程度まで押し上げる教育である。であればこのようなIB教育の結果とは当然離れたものになる。

 

 インターの教育は、決して誰にでも勧められる生易しい教育ではないことがよくわかった。ただ、この環境に耐えうる子ややる気ある子であれば、その力を何倍にも増やし「世界を変えうる人」に成長することも不可能な話ではないだろう。

 反面、教育費は高額で、しかもインターの過酷な環境に打ちのめされて我が子が帰ってくるかもしれない。厳しい世界であり、まさにエリートへの道だろう。

 対して日本は、偉大な成功を収めるための教育ではなく、日本社会の形成者となるよう着実な教育をしてくれる。学力が他国と比べ低いということも決してない。またできない子であっても、日本社会にあった人間になるように学校や教師は尽力してくれるだろう。手堅くやっていく、まさに日本の教育である。

 インターの教育は確かに魅力的に映る部分があり、世間からの興味が高まることも頷ける。ただひとつ言えるのがインターに入ったからグローバル人材になるとか、成功するということも決してないし、ただ子に成功させようと押し付けるのは親のエゴである。そもそもどんな教育がいいかということは、文化や社会によっていくらでも変わりうるものである。重要なのは個人個人とその目的に合わせた教育方法の選択だろう。

 できるとするならば、1人1人にあった教育ができることが、何よりの成功ではないだろうか。

*1:IB公式ホームページ「Mission」https://www.ibo.org/about-the-ib/mission/

*2:文部科学省教育基本法http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/06042712/003.htm

*3:文部科学省「結果の概要-平成28年度子供の学習費調査」2017年 http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa03/gakushuuhi/kekka/k_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/12/22/1399308_1.pdf

*4:アオバジャパンインターナショナルスクール「学費について」
https://japaninternationalschool.com/ja/admissions/tuitions-and-fees/

*5:サンモールインターナショナルスクール「Tuition & Fees」
https://www.stmaur.ac.jp/school/school/tuition-fees

*6:聖心インターナショナルスクール「Tuition Fees」
https://www.issh.ac.jp/admissions/tuition-fees