m-sms 2018

武蔵大学社会学部メディア社会学科2年次:メディア社会学方法論・松谷ゼミによる年刊ウェブマガジン

学校教育において部活動は必要なのか──生徒と教師の危うい現状

written by 西村 隼一[edited by 木間瀬 玲央]

部活動の必要性とは

 最近の日大アメフト部のタックル問題や体罰問題など、部活動における様々な問題が生じている。部活動は生徒、教員両者に負担をかけているのではないか。そこで部活動は学校教育に必要なのかを考えていきたい。

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強制が生み出す悪循環

 まず、対象を運動部と吹奏楽部に絞って考える。それらの部活動の顧問は、一月あたりの平均労働時間が過労死ラインの80時間を超えるからだ(*1)。

 部活動の定義は「教育課程外」の活動である。つまり、部活動は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」ものでなければいけない。しかし、部活動の入部を義務付けている中学校は全国で38.4%存在している(*2)。そのため、部活動に入部を希望しない生徒には負担になっている。

 一方、教員に対しても部活動は大きな負担となっている。まず労働時間である。運動部と吹奏楽部の顧問の教員の残業時間と持ち帰り時間は過労死ラインの月80時間を超えている。

 顧問への就任を強制する「全員顧問制」も大きな問題である。87.5%の中学校がこの制度を採用している。また、高校では45.0%、中学校では52.1%の顧問が担当競技の経験ない教員が担当している(*3)。これにより、競技の未経験者が顧問になる。さらに、教員が残業を強制される事態が発生している。f:id:M-SocioMediaStudies:20180729221930j:plain

理想の前に立ちはだかる現実

 現在、部活動の目標と目的をはっきりとしてないことが多いと千葉県某私立高校のT先生(40代・男性)は話す。部活動の目標は「勝つこと」。その上に目的として「人間形成」が存在する。このことを教員は忘れてはいけないという。

 まず、部活動入部の義務化はあってはならない。部活動の時間を趣味や勉強に充てたい生徒もいる。そのため、T先生は、「文部省は部活動入部を自由化する取り組みを考えるべきである」と話す。例えば、強制入部の実態を把握しやすいように、文部科学省のHPに特設サイトを設置し匿名で投稿できるようにするなどである。

 教員に対しても改善すべき点が多く存在する。まず、改善策として「外部コーチの導入」が考えられる。このことをT先生は賛成:反対=3:7と話していた。まず賛成の理由としては顧問をやりたくない教員の労働時間や精神的負担の軽減を挙げていた。さらに未経験の顧問だと本気で部活動に取り組みたい生徒が可哀想だともいう。

 一方、反対理由としては、外部コーチには生徒の学校生活までは把握できないことを問題視していた。T先生にとって部活動の目的は「人間形成」である。そのため授業でコミュニケーションをはかり「内面」を鍛え、部活動では「勝つこと」を目指し努力することを両立させることが大切だと話す。そして、両立させることで部活動の目的「人間形成」が達成されるのであるという。さらに外部コーチを招くと人件費の問題も発生する。そのため、外部コーチを招くのではなく教員の採用方法を考えるべきだとしていた。

 このような問題が発生するのは、専門性のある教員の数が足りないからだと先生は話していた。特に部活動の顧問をやりたい人を積極的に採用するべきだという。そうすることで、部活動を持ちたい教員が配属されたい部活動の顧問になることが可能になり、競技未経験の顧問が生まれなくなるという。さらに、残業時間の改善にもつながると話していた。教員の数を増やせば、各クラス担任を2人ずつ配置でき、事務作業を分担することが可能になり残業時間の短縮につながるという。

 同時に、部活動の顧問の現実とやりがいを教員志望の学生に伝えることも重要としていた。理想と現実のギャップに苦しむ人が多いからである。T先生は部活動の顧問を「師弟同行」と捉えている。生徒に指導するのと同時に、教員自身も学ぶということだ。そうすることで、生徒の成長に立ち会えるのに加え、自身も成長できるのがやりがいだという。

 T先生はいくら顧問にやりがいを感じていても、人間だから休息が必要だと話していた。そのため、部活動の顧問を保護する制度や法律を明確にする必要があると考える。

 現在は申請すると部活動の手当を受け取れる。しかし法律上、残業代は支払われず、あらかじめ給料に上乗せされている。そしてその上乗せされた給料は、実際の残業時間に見合っているとは言い難いのが実情である。

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部活動転換のとき

 部活動は学校教育において全員には必要があるわけではない。放課後の時間をどう過ごすかを決めるのは、生徒自身であるからだ。

 一方、部活動には良い面もある。目標に向かって努力することは貴重な財産になる。さらに、部活動を一生懸命取り組みたい生徒もいることも事実である。従って部活動は無くすべきではない。しかし、今まで論じてきたように、現在の部活動には様々な欠陥が存在する。そのため、早急に改善が必要である。

■参考文献
内田良『ブラック部活動──子どもと先生の苦しみに向き合う』(2017年/ 東洋館出版社 )
中澤篤史『そろそろ、部活のこれからを話しませんか──未来のための部活講義』(2017年/大月書店)

*1:大橋基博・中村茂喜「教員の長時間労働に拍車をかける部活動顧問制度」(『季刊教育法』189号40ページ/2016年)

*2:中沢篤史・西島央・矢野博之・熊谷信司「中学校部活動の指導・運営の現状と次期指導要領に向けた課題に関する教育社会学的研究」(『東京大学大学院教育学研究科紀要』48:317-337/2018年)

*3:日本体育協会『学校運動部活動指導者の実態に関する調査報告書』(2014年)